戻る

”―――ガラスの心臓が軋みを上げる”

 繰り返す呼吸に意味は無い。
 ただ昔から続いていたその延長。
 今となっては必要のないものは他にも多くあるというのに、そのどれもを止めてしまう事が出来ずにいる。
 自分の意識の外側で動き続けるそれらはきっと、自分が人間であろうとする意思そのものなのだろう。
 その”人間”だったころの名残が、今僕を”人”として繋ぎ止める唯一のモノ。

”―――碧い瞳が夜闇を暴く”

 到底、現代においての人の死とは言えぬ死を迎えて、訪れた二度目の冬の風は変わらずに冷たく険しいもの。
 瞳を閉じれば、耳元で脈打つ鼓動の残響。
 白い肌の下、流れる血潮に熱は無く、吐く息に色が付くこともない。

”―――冷たい四肢は闇夜にとける”
 きっと僕は世界の意思から嫌われた。
 死してなお、生を続ける、死迷い人(しまよいびと)。

「ようやく、これで終わりを―――――」

 懐かしい声。
 一番近くにある最後の記憶。
 狂おしいほど愛おしい、安堵の声。
 夜の先、遠く街灯の明かりの下で声の主が立っているような気がする。
 僕へ終わりを与える優しい魔法使い。
 悲しく笑い、こちらを見ている―――

戻る