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 争い事は好まない。
 周囲に敵は作らない。
 言いたいことを飲み込んで、気のない返事で切り抜けて。
 何もかもを抱え込んでみたら――――
 あぁ、これじゃ、何にも変わらない。


 ◆◆◆



 田舎のこの町の夜に人影はなく、見渡す限り青い夜の光に照らされている。
 遠くに見える民家の光は、夜空に浮かぶ星の距離と大差無いように見える。
 街から離れる様に、自転車のペダルを漕ぐ。
 小さなライトが行く先を照らし、強く踏み込むとタイヤの軋む音。
 秋から冬に移りゆく季節。
 夜は冷え込み、恐らく息は白く色づいていることだろう。
「――――っ、――――っ」
 カーブを繰り返す山道を上っていく。
 止まらぬように、重たいペダルに目一杯体重をかける。そこにたどり着いたのは家を出て約一時間が過ぎたころ。
 ほんの少し開けた場所にたどり着く。木々は無く、視界は良好。夜空が開け、眼下には夜に沈んだ街並み。
 町はずれ、上り坂の終着点。
 そこは無人の駐車場。
 隣には廃墟と化した建造物。
 三階建ての建物。そこはかつてのプラネタリウム。
 一階にプラネタリウム室。二階に展示室などがあり、三階は天体観察室になっていた。時代の流れの中、訪れる客足の減少から、閉館が決まったのはもう五年も前の事。
 天体観察室の大型望遠鏡は撤去され、プラネタリウムの上映器やそのほか展示品の多くは処分された。
 空っぽになった建物は役目を終え、星空の下で静かに眠っている。
 多分、この町で一番静かな場所。
 人の熱から遠く、一番空に近い。
 いつでも一人になれる、忘れられた場所。








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